ハイヒールが特別なものではない、
ただの、あなたにとって大切な、選択の一つになってほしい。
ハイヒール・プロジェクトは義足を使用し生活するアーティスト片山真理が、ハイヒールを履ける義足を製作し、
街を歩き、ステージに立つプロジェクトとして2011年にスタートしました。
開始から10 年を経て、2022年より本格的に再始動する第2弾では次のフェイズへと進み、様々な他者とつながり、
全ての人の「理想を抱く自由」に向けて動き出します。
just one of those things #002 – High Heel Project 2022 special edition, 2022 ©Mari Katayama
はじまり
大学時代ジャズバーで歌手をしていた片山は、ある日、客から「ハイヒールを履いてない女なんて女じゃない」と野次を飛ばされました。その悔しさをバネに始まった第1弾で片山が直面したのは、公助によって与えられる選択肢が非常に少ないという日本の社会福祉の現状でした。「ファッション」は贅沢品であり、当事者の社会復帰や社会活動において重要な要素ではないと突きつけられている。たとえそれがとても「過剰」でアイコニックなハイヒールであっても、「それを着て外に出たくなるような服」であっても、一人でトイレに行くことができる着脱が楽な服であっても、それらは全て「装い」の領域となり、福祉の側に位置づけられることはなかったのです。それらを必ずしもみんなが履くべき、着るべきというわけではなく、ただ、その前段階に「やりたい/やりたくない」という自由な選択肢があることが大切で、それを多くの人に広く伝えていくことが必要だと、片山は考えました。
「義足でハイヒールを履くことは、人々の「選択の自由」の問題につながっている。私はハイヒールで歩いていこう。」
2011年当時は、既成の部品や靴を調整してハイヒールを履き、自ら表舞台に立つところまでがゴールでした。第2弾では、部品や靴の開発も行いながら、プロジェクトに関わる専門家、同様の障がいを抱える当事者や障がいや身体にかかわる研究者へのリサーチを通じて、あらゆる人に与えられるべき選択の自由、福祉、そして身体そのものの可能性について問う機会を目指しています。
今回は新たにイタリアのラグジュアリーシューズブランド Sergio Rossi(セルジオ ロッシ)が本プロジェクトに参加し、ハイヒールシューズを制作します。オブジェ制作から始まった片山の創作活動とシューズ1足の全製造工程にあるブランド専属の職人による熟練の「手仕事」が繋がり、創始者であるセルジオ・ロッシ氏の「シューズは女性の脚の延長である」という理念に片山が共鳴したことにより、セルジオ ロッシのプロジェクト参加が決まりました。
「ハイヒール・プロジェクト」第2弾に向けて
自らの装いをいかに選ぶか。それは、すべての人に共通する社会の問題です。ビジネスの現場で女性たちがパンプスを履くことを強要されるのに抗議した「#KuToo」運動も、(履こうとする靴の方向性が真逆であるとしても)本プロジェクトと共通する問題意識を持った活動であるように思います。SNS などを通じた個人による発信が容易になったいま、装いだけでなく、自身が属するコミュニティの中での振る舞いや、過去の行いまでもが社会化されつつあります。一体、どこまでがあなたで、どこまでがあなたではないのでしょうか。わたしやあなたは誰のものなのでしょうか。そうした中で「社会に求められる自己」を演じなければならない人、「社会が求める姿」にフィットせず、自由に振る舞うことを諦めざるを得ない人は数多いと感じます。ハイヒール・プロジェクトが、社会や自分自身の枠に囚われている個人の心をその人自身が許せるようになる一助となることを願っています。
共に歩むということ
「福祉」という枠組みや義足ユーザーという「当事者」という立場は、時として発言や普及に障害となる場合があります。いつまでたっても当事者は「特別」であって、特別なことは「普通」になることも、普及することもできません。つまり、お金にならないし、「特別」がひとたび問題になれば大問題になってしまいます。当事者本人と関わる責任を担い、未知の世界へ歩み寄ることは、言葉や数字で判断されることの多い現代ではとても難しいことなのだと感じます。そんな時代に、親身に、真剣に向き合い、受け入れ、共に走ってくださるというセルジオ ロッシの登場は、ハイヒール・プロジェクトを再開する大きなきっかけとなりました。初めてセルジオ ロッシのハイヒールに触れた時、「履けなくてもいいからこの靴が欲しい」と思いました。「履くことが出来るハイヒールならどんな物でもいい」と思っていた10年前のハイヒールプロジェクトとは大きな違いです。私自身もやっと、選択する楽しさや幸せを感じることができました。 そんな喜びを、大きく広く育てていけるよう、大切に歩みたいと思っています。
片山真理
[High Heel Project Special Edition]
再始動に際し「ハイヒール・プロジェクト」スペシャル・エディション作品の販売が決定しました。このハイヒール・プロジェクトでは、ハイヒールの完成後も全国各地の教育機関などに赴き、多様性に触れるトークショーや講演活動を行うことで、未来を担う人々に新しい視点を提供することを目標のひとつに据えています。本作の売上はプロジェクトの運営・活動費として使用される予定です。
お問い合わせは Mari Katayama Studio studio@marikatayama.com (担当:中)まで。
[interview]
1 July 2022 VOGUE CHANGE
全ての人の、理想を抱く自由に向けて──片山真理が「ハイヒール・プロジェクト」のための限定作品を販売開始。
16 Feburuary 2022 VOGUE CHANGE
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